『幸せそうにみえる』  CAST:Hizikata,Kagura,Okita,Kondo,Yamazaki.












 空気が生ぬるかった。
 それに同化してか、頭の触れる床板まで半端に温もりを持っている。いっそ熱いか冷たいかした方が余程良く、気持ちの悪い温度だった。
 いつもここで寝ようとするあいつの気が知れない。ふとそう思ったら、あの柔らかい金髪と曖昧に微笑った顔が浮かんできて、土方は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
「…総悟の野郎、思いっきり入れやがって……」
まだずきずきする左肩に少し手をやって、ため息をつく。この肩に木刀で渾身の一撃を叩き込んだ当の本人は今頃も、やっぱり道場で他の隊士相手に容赦の無い剣術指南役をこなしているのだろう。本当なら彼と近藤と自分とで、分担してやらなければいけない仕事だが。

『何バカ言ってんですかィ、怪我人は縁側ででも休んでて下せェ。ここは俺が受け持ちまさァ』

 ぱっと聞いた感じは気遣いのような言葉を投げかけながらも、その顔には相変わらず浮かんでいる人を小馬鹿にしたような笑み。思い出しているとまた頭に血が昇ってくるのを感じて、はあと深く息を吐きそれを抑えた。目を閉じる。
 春の日差しがほんの少し頬に当たる。長く居れば熱くなりそうだ・と思ったが、じきに日が傾いて改善されるだろう。ぼんやりそんなようなことを考えているうちに、すうっと意識は遠のいた。

 彼もそれなりに疲れていたのかもしれない。
































 「遊びに来たヨー多串クン、もしくは沖田、ミントン!ヒマ潰しに付き合うヨロシ」
門から入ると一応番をしている隊士がうるさいから塀を乗り越え勝手に中へ。そして元気良く上のようなことを口走りながらてくてく歩く神楽に、応える声は今は無かった。
「…誰も居ないカ?」
きょとんと目を丸くし、庭を過ぎて突き当たった縁側に沿ってさらに歩く。暖かい日差しも彼女には少しきついが、それでもその白い光は綺麗だった。
「ちょっと暑いネ」
今度は独り言。なんとなくだけど多分誰も出ないだろうと悟って、もうあまり大きな声は出さずに進む。それでも帰らなかったのは、まだ心のどこかで期待していたからだろう。
 そしてその期待は裏切られなかった。
「あ」
二つめの角を曲がると、縁側に真っ黒いものが横たわっているのが目に入った。降り注ぐ日の光にぼんやりと浮き上がって見えるそれは、微動だにしない。
「……多串クーン。」
いつもと雰囲気が違うのを察して、そっと小声で呼びかけながら近寄ってみる。やっぱり、動かない。
 1メートルと離れていない所まで来た。いつも会うたびに力いっぱい皺の寄っている眉間がすっと伸びていて、ゆるく結ばれた唇は決して憎まれ口を叩きはしなかった。
 白い肌が日光を反射して、ほんのり輝いて見える。
「…別人アルな……」
まじまじと興味深げに寝顔を見つめながら、よいしょ・と縁側に勝手に上がる。膝で歩いて部屋側に回りこんで、そして土方のすぐ傍で頬杖をついた。
 「起―きーるーヨー。」
言って、少し頬をつついてみたものの、起こすのは惜しい気もしていた。
 多分起きたらやっぱりいつものようにぎゅうっと顔をしかめて、なんだチャイナ・とか言って、身体に良いはずもないのに煙草をいっぱい吸うんだろう。

 こんなにきれいな顔も出来るのに。
 こんなにこの世は暖かくて、優しいのに。

「…もーちょい、気ィ抜きゃ良いネ。」
呟くように言って、ちょっと微笑った。が。
「……」
軽く目をこすり始める。そうして「眠い」と小さく小さくぼやいて、ぽてんと目の前の土方の胸に頭を落とした。



 じきに聴こえ始める、規則正しい二つの寝息。





























 「ただいまーっ、ちゃんと寝てたかぁトシ…って、あれ?」
賑やかに帰還した近藤が少し驚いたような声をあげた。少し後から来た沖田が、どーしやした・と訊ねる。
「万事屋の嬢ちゃんじゃねーか?なんで居るんだ、オイ」
「へぇ?……おお、ホントだ。しかもなんか睦まじい感じですねィ」
「まあ、なんかそんなだな。でもそれは“『仲』睦まじい”の方がもっとしっくりくると思うぞ総悟」
「あ、そっか。さすが近藤さん」
「いや多分どっちでも良いと思いますよ。…けど、ほんと気持ち良さそうですね。いっつもこの子と会うと副長も沖田さんも喧嘩ばっかだし…なんか仲良いみたいで、可愛いや」
「鬼の副長が可愛く見えるたァ、お前も末期だね山崎」
「末期って!?」
ツッコミの性なのか、思い切り慌て始める山崎を尻目に、沖田はいそいそと奥の部屋に行って箪笥の中をまさぐりだす。
「何やってんだ総悟」
「いや、今のうちにビラ用の写真撮っとかないと」
「……ビラ?」
 近藤はなんだか少し不安な気分になるのを感じた。

































 頬が薄ら寒い気がした。
 そのわりに、身体は温かい気がした。
 「……?」
浮上してきた意識の中でそこはかとない違和感を覚える。なんだろう、何か、何かが、おかしい。
 重い瞼を持ち上げる。藍色に染まった空が目に入り、一気に目が覚めた。
しまった、すっかり寝入ってしまった。露骨に舌打ちをして起き上がろうとしたが、
「………あ?」
思いがけない胸の重みに、間抜けた声を出す。そこで初めて視線を下向けて、そしてさっきからあった違和感の正体を悟った。
「…っなんでっぐッ!」
「土方さんそこで叩き起こすのは野暮ですぜィ」
叫びかけた口を思いっきり平手で塞がれた所為で珍妙な言葉が出来上がったが、そんなことはどうでも良い。塞ぎながら訳の分からないことを堂々とのたまう沖田をぎっと睨みつける。右手で少しだけその手を外して、
「……てめェ、どういうつもりだっ!」
「別に?ただお嬢さんがあんまりに気持ち良さそうだから、起こすに忍びないってだけでさァ」
「…俺が苦しいんですけど」
「まあまあまあ、我慢しなせィ。もうちょっとしたらビラも上がりやす」
「ビラ!?ちょっと待てビラってなんのことだオイ!」
「んー、あ、ここに見本が。写真はまだですけど」
ぴらりと広げて見せてやる。大活字で、『副長、ロリコン疑惑浮上!』と銘打ってあった。血の気が下がる。ちなみに題字の脇には少しだけ控えめな字で『相手は万事屋のチャイナっ娘』。
「後で市中見回り組が帰って来たらスピーカーで触れ回りながらこれバラまくんでさァ」
「馬鹿かてめぇ誰がロリコンだコラ!やめろォォ!!ってかそんなんどうでも良い、良く考えたらなんでてめェの都合で俺がじっとしてなきゃならねーんだ!オイ起きろチャイナ俺は布団じゃねェ!!」
 んー・と小さく呻く声に、軽い身じろぎ。この大声でも起きないとはどういう耳だ。ますます声のボルテージは上がる。
「コラ聞いてんのかチャイっ…」
「うるさいヨ新八っ」
べし。神楽は起きずに手だけ勢い良く動かし土方の顔をはたいた。
「……」
「…土方さん、頭が床にめりこんでますぜ」
「…めりこんでるなぁ……」
「何落ち着いて言ってんですか局長まで!ちょっ…大丈夫ですかァァ副長!チャイナさんもまぁだ寝てるしっ……」
「こらこら、騒ぐな山崎。よく見てみろ」
「はい?…何をですか、局長」
「チャイナさん。ほら、」
にこにこしながら指差して、


「幸せそうじゃないか。」


 「……」
「…まぁ、確かに嬉しそーな顔して寝てますけど」
「近藤さんは人のそういう表情、見つけるのが得意ですねィ。」
「あっははは、チャイナさんがあからさまなだけだ!」
「…俺の身も考えてくれ近藤さん……」













 ぐったりした土方の声は、焼けた空と薄闇に消えた。










                                   -------------End.
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 これ、一応リクなんです…「一緒にお昼寝土神」。
 …今更何言ってんだお前・って話ですよねホント 遅くってすみません…!(大汗) やっぱり大量のファイルの奥に埋もれてたものを無理矢理終わらせました。それなりに気に入っております。わりと初期のノリな気がして…!(ぇ

 とりあえず自分的に『強さ』なら大体近藤≧沖田>土方です。一応、大体のサイトさんで仰られてるとおり。。 けど心情的にいうと土方さんそんなに弱くないよー!って感じなので…いや冷静にも考えてますけど…実のところ勝負したら沖田≒土方ぐらいなんじゃないかと。びみょ〜な所。細かく言うと、沖田はホントに天賦の才プラス多彩な技・でかなり“柔”寄りの剣、土方のほうは技はそれなりだけど勘と経験と持ち前の馬鹿力(これが沖田より上)で無理矢理勝ちに持ってく思いっきり“剛”寄りの剣だと思うんです。だからあまり比べようが無いというかなんかそんなん…うん、きっとそんなん。理想。信じてる(一方的に)
 ちなみに近藤さんはきっとちょうど中間くらいなんではないかと。力も強くて技もかなり・みたいな。でもそれ以上にあの人柄だからみんなのまとめ役になれてるんだと思いますがね;
 あー何を長く語ってるんだろう。…要するにこの話で最初に土方さんが沖田の一撃肩に受けて寝てるのはたまたまこの日の手合わせでは力勝負に持ってく前に沖田がぱっと勝負決めちゃっただけって話です…!土方さんは絶対弱くないんだ……!(ぇ)