「おんしゃあ、まっこと気が回らんのお…」
「そうか?」
「そぉじゃッ。」



 黒髪の天然パーマ頭は少しだけ声を大きくして、金髪のストレート頭の女はすたすたとなおも歩く。












  『背中を知るひと』    CAST:Sakamoto,Mutsu.














 「妓と居るとこにずかずか入ってくる奴がおるかい!」
「置いていって欲しかったのか?大体、社長がおらにゃ格好つかんじゃろが。それなりに大事な商談だぞ今日のは」
「……あーあ。」
「女遊びをするな・なんちゃー言うちょらん。やるならやるでさっさと済ませてとっとと仕事せぇ言うとんじゃき、素直にせんね」
「女がそんなロマンの欠片も無いこと言うなや、可愛くねー…」
「闘う女にゃあそんなもん不要じゃ」
「え、アレちょっと、今背後に炎見えなかった?ねぇ陸奥さん?」
 すたすたすたすた。道行く人皆がゆったり歩く花街で、その二人だけは異様なスピードで街の出口へと進んでいく。まだ夜明けまでには間があった。空が暗い。
 その時、陸奥の後ろについて歩いていた坂本が、きょんとその瞳を丸くした。おもむろに手を伸ばす。

「!」

いきなり髪に何かを感じたので、思わずびくりと足を止めた。慌てて後ろに向き直る間も無く、坂本がのんびり「あーあー、ったく。」と言う。手先は陸奥の髪をもそもそと弄くっていた。
「こがに不精なことしちょってからに……髪留め、取れかかってとうぜ」
「…ああ……。」
 そういえば昨日起きてすぐ適当に留めてきたんだった・と思い出す。それからふうとため息をついた。
「…坂本は、どうでも良いことによく気が向くな」
「そうかねぇ」
それよりこれ、ワシ、留めていい?と好奇心丸出しでうきうきと訊いてきた坂本に、別に構わん・と軽く返す。場所は花街の大通り、これくらいのことは全くもってどうということのない風景の一部である。ぼんやりと手持ち無沙汰に待つ。
 「…しかし、驚いた」
「あ?」
「髪に触られるまで、お前が何をしているのかも気付かんかったよ」
「あ、そうじゃなあ。よく考えたら、撃たれてもおかしくなかったぜよ、俺」

 ころころと良く笑う。その無邪気さがまた沢山の人間を惹きつける。







 自分もまたその一人・か。












 「…お前の気配に、うといんじゃなあ」

「へえ!敵なら1メートル以内に入りゃ即発砲の陸奥さまが?」

「ああ」

思いっきりからかって言った坂本の言葉に、あっさり頷く。口元が穏やかに笑っている。

「お前になら、背中だって斬られる気がするよ」

「まさか。それに、ワシゃあ斬らんし撃たんきー。長生きしてどーぞこの快援隊、しっかり支えてって下さい」

「お前が支えろ」



 肘で軽く、後ろの男を小突く。くい・と菅笠を目深に被り直した。すっかり微笑ってしまった顔を隠すためだ。

 彼女の鳶色の瞳がこんなにも温かく煌めくことなんて滅多に無いことなのだけれど。














 「済んだか、坂本」
「え?あー、いや、まぁ…」
「ならとっとと行くぞ。時間が勿体無いっちゅう」
「いやもうちょっと…そしたらきっと綺麗に三つ編みでき」
「おい貴様何を遊んどる」
「あっはっはっは、いや冗談ぜよ冗談…なあ、陸奥ー?」
「……」














 やっぱり笑みは消えないのだ

















 「…やっぱり、お前が大将じゃ。」



 しばらくしてから、後ろの彼には聞こえないくらいの声で彼女は呟いた。





























 私は誰にも気を許したことは無いしこれからも許すつもりは無い。が、それでも万一、万一そうせざるを得ないようなことがあったなら。






 あったなら、――…背中を預けるのは、この人だけが良い。








 不意に、切に、そう願うことがあるんだよ。














                                 ------------End.
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 坂本×陸奥ってほんとに良いなあ…(え)

 消化不良の臭いがぷんぷんしててすいません。。土佐弁、ネットで調べまくったけどやっぱり難しい…;;  ていうか陸奥さんは土佐弁より事務的な標準語の方がしっくりきちゃうよ。早くまともな出番をもっかい下さい空知先生!(神頼み)

 陸奥はやっぱ恋愛には疎いキャラかと。でも坂本の女遊び現場にも平気で乗り込んで仕事に引きずり出せる究極の鬼妻(違) 
 知ってるけど、興味なくて冷めてる…みたいな(何) 坂本早く出てきてください陸奥と一緒に!(笑)