この街は実際問題平和ボケの真っ最中で、だけどなかなかボケられない可哀想な奴らもまだまだ居て、だから俺らは今日も刀を腰につけていられる。



 でもだからこそ、俺らは時々真っ赤にならなきゃならない。











  『Relief.』      CAST:Hizikata,Kagura.









 「多串クン」
「……土方だ」
「おっ、久々につっこんだな」
「分かってんなら訂正しやがれ」
「でも覇気が無さすぎヨ」
 振り向く気はしなかったからあちらが来さえしなければあの妙に無邪気でガキ臭い顔を見ることも無かった。のに、あちらが来てしまったので結局今目の前にはその蒼い瞳があるってわけだ。
「うわぁ、目ぇ半開きのクセに瞳孔開いてル」
「余計なお世話だ」
「眠いのカ?」
「…かも知れねェな」
「疲れてるのカ?」
「かもな」
「苦しいカ?」
「……さぁな」
「ちゃんとこっち見るヨロシー」
ぺち、と土方の白い頬を両の手の平で挟んで、それなりに強引に自分のほうを向かせる。ぼうっとした瞳がじろりとこちらを見た。
「……うるせェなぁ」
「うるさいとは何事ヨ。心配してやってるアル」
「これで?」
「公園のベンチにぼけっと座ってるマダオにここまでちゃんと話しかけてやってるんだからスゴイことネ」
「マダオってなんだ」
「まるで・駄目な・おと」
「あ〜もう良いもう良い、大体分かった……ってか誰が駄目な大人だオイ。あ、男・ってのも有り得んの?」
「…ツッコミまで勢いが無いとはなんとゆー……」
「…お前は俺に何がして欲しーんだ」
頭を抱えていた腕をふと下ろし、きょとんと土方を見つめ直す。目の高さはこちらが上。
「ボケにツッコミ入れて欲しいのか。駄菓子おごってもらいてーのか。それとも適当にからかえれば満足か?」
「……んー」
少し考える。そして、
「わらってほしい。」
にっこり笑って、何よりも無理難題(彼にとっては)なことを言い放つ。勿論答えは、
「……無理だな」
「え――なんでヨ!!」
 あからさまに、ぷんすかとか本当に言いそうな様子で怒り始める神楽にまたため息。こいつの相手は酷く疲れる。ただ、それでもやめないのは、自分も馬鹿なのだと反省する所だ。
「なんでも何も…お前俺が笑ってるとこ見たことあんのか?楽しそーによ」
「無いから言ってるアル!おマエ銀ちゃんに喧嘩売ってる時ぐらいしか笑わない、つまんないヨ、少しは一緒に笑うアル!!」
「やだねお前と一緒にってのが特にヤだ」
「何ヨこのひねくれモノ、そんなにスネてると大黒サマにヘソ取られるヨ!」
「オイ待てなんか色々混ざってんぞ!大黒ってなんだ大黒って…っつかスネてて誰になんでヘソ取られんだ!取られるか馬鹿!!」
「馬鹿って言うなっ、ば――か!!」
「んだとコラ!お前のがよっぽど嫌味ったらし……っ」
だんだん神楽のボケにのせられツッコミのテンションが上がってきた土方だったが、不意に頭にごんと鈍い衝撃が伝わり額に痛みが走ったのでそれも止めた。ぱちぱちと瞬き。ごく至近距離で、神楽の顔がにこりと笑った。
「笑ってても怒ってもどうでも、私、おマエの傍でこうしてるのが好き。」
「……」
「けど、でも、せっかくだし…どうせなら、笑っててくれる方が嬉しいヨ。」
「…、……ぅ」
「ね。笑ってくれル?」
「……。」
 沈黙は長かった。数センチ先でまん丸に見開かれこちらを見つめる蒼い瞳を、ずっと睨めるように見ながら、それでも土方は何も言わなかった。

 ただ、その沈黙の後に、小さなため息でそれを破って。


「ぉ。」
ゆっくり手を伸ばして両側から挟むように神楽の頭を捉えた。少し頭を傾けると、すぐにまたこつんと額どうしがくっ付く。
「……」
「…何ヨ」
少し伺うような目をした神楽をまた数秒見つめた。あまり表情の無い目。



 けど、その一瞬間あとに。




「………。」


 ふっ・と、瞳の光が和らいで口元が緩んだ。





















 むしろ苦笑に近いようなそれでも、一応神楽は満足したらしい。にっこり笑って、
「ウン。まぁまぁアルな、多串クンにしては上出来ネ」
「そーかい」
もうほとんど元の仏頂面に戻っていた土方に殆ど構わず、自分の頭に伸ばされた腕の合間から器用に自分の手を伸ばしてきゅっと首筋に抱きついた。肩に頭を乗せる。
「ねー、このまま万事屋まで送ってって」
「馬鹿言え、なんで俺が」
「元気になったの、誰のお蔭と思てるネ」
「……元気?」
言われて数秒固まって、それからああそうか・と思い出した。そういえばほんの二分前までは手にこびりついた赤のイメージが取れなくて鬱屈していた。
「……忘れてたな」
「ン?何が?何を?」
「てめーには関係ねェよ」
 ほら行くんだろ・と、両腕を今度は彼女の身体に巻いて抱き上げる。立つと、軽かったが、温かい。
「なんだ、送る気あるなら最初に言えヨ」
「表は通らねえからな。裏道行くぞ」
「え――、陰気くさっ!」
「お前みたいな見た目赤いガキ抱えて表通りなんぞ通れるか!」
「ふんだ」
言っている声はふてくされたような調子だったが顔は笑っているようで、じきに鼻歌まで歌いだしたから土方も特に気にしない。そのまま、会話の無い帰路が続く。


 だが温かかった。ただ、本当に、温かかった。
 温かくて。優しくて――





























 この街は実際問題平和ボケの真っ最中で、だけどなかなかボケられない可哀想な奴らもまだまだ居て、だから俺らは今日も刀を腰につけていられる。




 でもだからこそ、俺らは時々真っ赤にならなきゃならない。

 そしてだからこそ、お前みたいのが居ると正直、
救われるんだよ










                              -------------------End.
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 実は今更なんですが一応リクに沿ってる(つもり)の一作です……「甘い土神」。もしくは「ちょっと甘めの土神」。違いの分からない馬鹿ですいません(…)  最初、「お前は俺にどうしてほしーんだ」の少し前くらいから違う展開になって、行為的に甘いの(要するに…まぁ甘々ということで(ぉ))を書こうと思っていたんですが…、……飽きまして…(ぅおーい)
 どうにもこうにも続かないのでそこを切り取って(一応保存してはありますが)、書き足してここまで書き上げました。やっとだよ日朝さん!(馬鹿)

 土方さんは人斬りとか上の人達と真選組との摩擦防止に駆けずり回ったりとかでちょっと疲れてたんですよ。でもやっぱり神楽になんだかんだでほっとして誤魔化されました(そんな話なのか)
 やっぱり土方さんは日頃から近藤さんに気付かれないようにこっそり裏で周りと組の関係が緩和するように努めてると良いです。必死こいて頑張ってると良い。沖田とかにも一応隠してるけどあの子はその辺しっかりお見通しでだけど黙ってて、そのうち土方さんの疲労がピークに達して倒れそうになったらちょっと抑えてやってくれたりするともっと良(その辺にしとけ)



 次の「甘い話」はちゃんとらぶらぶさせてあげようかなー、と思っとります。土神。でも予定は未定……;;