ある日、気まぐれにピアスとやらを開けてみた。












 
   『ピアス』  CAST:Okita,Tae,Hizikata.














 昔拾われたも同然にあの古道場へ転がり込んでからもう十年以上、ずっと竹刀やら木刀やら真剣やらばかり握っていて自分を飾ろうなんて思った試しは殆ど無かった。それは一番に大事な人がそういうのにどうも疎く剣ばかり好んでいたせいでもあるし、一番に傍にいる人が子供にはまだ早いと言わんばかりに涼しい顔してなんにも教えてくれなかったせいでもある。とにかく、装飾品の類を手に持ったことは殆ど無かった。
 だから本当にそれはただの気まぐれ。あの人が最近熱を上げてる女の人、その縁でなんだか最近結構よくお話しする人が、にっこり笑って「あなたきれいな顔だからきっと似合うわ」なんて言うものだから、「小さいのなら目立たないし邪魔にもならないわよ」なんて言いながら白い耳にきらめく小さな赤い粒をちらりと見せたりするものだから、ちょっとその気になってみただけだ。
 穴を開けた瞬間は、冷たくしすぎた耳にじんじんと鈍い痛みが残るだけで、なんだかくもりガラスの向こうの何かを見てるみたいにぼんやりした感覚だった。穴を開けるための道具、なんだっけな、ぴあっさー?だっけ。は、なんとなくヤだったんで。昔何かで聞いたものすごくレトロっぽい手段で開けた、氷で耳冷やして感覚麻痺したとこを針でぶっすり。…あ、消毒はちゃんとしたよ。しました。一応。
 でもやっぱり変な意地張らないで大人しく最新の開け方すればよかったかな、と、ずきずきしてきた耳たぶを抱えて思った。でももうどうしようもないのでそのまま屯所に帰…ろうと思ったけれどなんとなくその前に件の女の人の所へ寄ってみた。やっぱり気まぐれで。



 「…あら。本当に開けたの?」
「へい。試しにひとつずつ」
「ふふ、どう?」
「…どう、と言われましても……なんとも言えませんや」
「そう。やっぱり似合ってると思うけどね、私は」
「そうですかィ?」
「ええ。…変に飾ったものは付けない方がよさそうね。貴方。石一粒だけとか、ごくシンプルなのが似合いそう」
「はぁ……ま、下手にごちゃごちゃ何かくっ付いてるの選んだら、邪魔ですもんねィ」
「ああ、そうね。貴方のお仕事には邪魔そうね」
ええ、と頷き、茶をすする。そんな沖田を少し眺めた後で、妙はふと思いついたように口を開いた。
「…ね、知ってる、沖田さん」
「なんですかィ」
「ピアスってね、魔よけなんですって」
きょとん。目を丸くして妙の深い黒の瞳を見る。彼女はゆったりと続けた。
「悪魔…西洋版の鬼みたいなものかしら、それがね、身体に入らないように。番をさせているんだそうよ」
「……へぇ」
「だから取っちゃだめよ」
「…開けてもそのうち取る奴とか、居るじゃねェですか」
「知ってるのと知らないのとじゃ、違うわ」
「違いますか」
「違うわ。…あ、それと」
「はい?」
「取らせちゃ、だめよ。」
「……」
「人に。」
そしてとどめのように(あの人に対してだったらきっと本物のとどめになったろうな)にこりと彼女は笑った。

「今の話を本当だとすると、ピアスは自分の門を閉じている番人よ。それを他人に外させるってことはね、その人に向かって扉を開けっ放し、入り放題にさせるということよ。」


「無防備なのよ」





















 結局ピアスはその日のうちに屯所にも帰らないうちに、ていうかその人の家で、外してしまった。




 不思議そうな顔をするその人に、微笑って言う。
「あくまって、鬼みてェなもんなんでしょう」
「…多分」
「姐さん、俺はね。鬼になりてェんでさァ」
「……」
「コレ取ってあっちから来てもらえるってんなら、喜んで取りまさァ。閉じて防御なんてしやせんよ。どうぞ入ってくださいって、鍵なんて外して戸開けっ放しで、両手広げて甘い顔して向かえてやりまさァ。そいでね、入ってきたら喧嘩して、勝つんです」
「……。沖田さん」
「鬼になりてェんですよ」

 おにに。
 少し納得のいかないような複雑な表情の彼女へ、ただ繰り返した。


































 ちょっと赤い小さな穴だけ残した、ほぼいつも通りの耳で屯所へ帰る。たまたま出るところだったのか玄関にいた山崎がおかえりなさい・と言い、それにおう・と軽く返事しながら奥へ上がった。それからもすれ違い、簡単な挨拶をしていく色んな人たち。
 平隊士。隊長。平。平。隊長。平。副長。
 ……ん?
「オイコラ」
がっ・と肩を掴まれて、何食わぬ顔で進めようとしていた歩をむりやり止められる。実はその掴む手がちょっと痛かったりしたんで内心むっとしながら、いつも通りの顔を装ってなんですかィ・と返した。じっとこちらを見つめる(睨む?)瞳は、金色。あんた一体何人だ。
「…その耳どうした」
「はぁ?」
言われてもすぐにはなんのことだか分からなかった。けど自分の耳に何かしら異変があるとしたらあの小さな穴しかないと思い至り、ああ・と声を上げた。そうしてちょっと目を丸くする。
「…よく気付きましたねィ、こんなもん」
「ちょうど見えたんだよ」
「そうですねィ、細かいことでもちゃんと気付いてやらねェと女の相手なんざ務まりませんもんねィ女ったらし」
「お前マジここで死ぬか?」
「いやでさァ、俺はまだまだたくさん夢もあるうら若き少年なんでさァ」
「自分で“うら若き”とか言うな気持ち悪ィ!」
そこまで叫んでそういえばなんだか本題をごまかされつつあることに気付いたらしい。はたと口をつぐみ、それから相変わらず不機嫌ながらも伺うような目を取り戻した。訊く。
「……で、結局なんだその耳は」
「ピアスってやつでさァ」
「は?」
「すぐ取っちゃいやしたけどね」
のんびり言うと、最初彼は驚いたように目を見開いて(瞳孔もますます開く)、それから少し呆れたような顔になった。
「…なんだ、急に色気づきやがって」
「すぐ取ったって言ってるでしょ。それに、ただの気まぐれでさァ」
「ああそうかい」
ちょっと投げやりに言って、深いため息。なんだよ今のため息つくよーなとこですか?ていうか。
「…触んねェで下さい、気持ち悪ィ。」
「……あぁ」
言うと、初めて思い至ったみたいにまた目を開いてそれからちょっとこめかみの髪を上げるようにして添えていた手を離した。硬いけど細くて冷たい、あんたは女かと言いたくなる手、いつもの。鬼のくせにそれはいつも。
「オイ」
「はィ?」
「一応消毒しとけよ、もう一回。俺もやったこと無ェしそんなに詳しくねーけどな、膿んだりしたら後々面倒だぞ」
「……。へい」
「よし」
くる・と顔まで向こうへやって、すたすた歩いていく。不似合いすぎる最後の細かな気遣い、忠告に少し顔をしかめながら見送るその背中。ああ、鬼のくせに。
「ちくしょー」
に・と笑う。



「絶対あんたよりすげェ鬼になってやる」



言いながら、門番の居ない耳を少し触った。じんじんと、鈍く痛い。

















                                    ------------End,
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 新年最初の更新(現在2006年元日)が土沖もどきかよ・と自分でつっこんでみます日朝です(ぉぃ)
 なんだか急にピアスする沖田書きたくなって。で、ドラマシリーズ「相棒」のちょっと前やってた連続殺人犯の話が思い出されたりしたんで微妙に利用してみました。お妙さんが出てるのはただの趣味(笑) 沖妙って結構好きかもしれない……近藤さんが死ぬほど好きな沖田となんか嫌いなお妙さん(良く考えたらすげー組み合わせなんだな)

 沖田を出して土方出すと、なんか無性に喋らせたくなる。くっつけたくなる(恋愛要素抜きで)。沖田と土方って、銀魂に限らず他新選組作品でも、なんか不思議ーな感じですね。別に恋人でも無いし一番大事でもない(一番は大体近藤さん)のに、妙に距離が無いっつーか。。うあー一緒でいてほしいけど完璧ホモになるのもやだしなあ!(汗) ぎりぎりのライン、見極めが難しい。つーかマジ、更新土神じゃなくてすいません;;(今更)