『誰が為に 君が為に、鐘の音を』  CAST:Shinsengumi,Yorozuya,soyo.

                             ----------3、『うさぎは今は眠る』



















 なんだか、暑い。

 闇から少し浮上してきて、まず思ったことはそれだった。けれど暫くして、それは『暑い』ではなく『熱い』だと知る。


 昼過ぎまで寝過ごした時みたいに重い瞼を開けると、見慣れない天井と和風の電気カバー。頭は相変わらずぼんやりして思考も鈍かったが、それでもとりあえず自分が布団の中で寝ているらしいとは解る。新八どーして起こしてくれなかったカ・などと考えつつ身を起こそうとしたら、胸に鋭い痛みが走ってびくんと身体を震わせた。
 気絶する前の一連のことが、さあっと頭を通り過ぎる。
 「……!」
一気に冴え始めた頭で、がばっと無理矢理身体を起こす。見ると、胸元が僅かに開いていてそこに包帯が覘いていた。少しだけ赤く滲んでいるのも見える。
「…撃たれたんだっけ」
「お、気が付いたか」
 いきなり低い声が降ってきたので、思い切り吃驚して少し後じさり。けれどそこに居るのが割と見慣れた人物であるのを見て取り、ほっと息をついた。
「お前かヨ」
「おーい保護してやってんのにご挨拶だな、コラ」
声には凄みがあるが、顔は苦笑を浮かべていた。彼女の毒舌にもそろそろ慣れてきたのだろうか。ゆっくりと部屋の入り口から中へ足を踏み入れる。
「なんでお前ここにいるネ」
「ここは真撰組屯所だぞ。居ねぇ方がおかしいわ」
「……屯所?」
 あれ?そういえば自分、堀に落ちたんじゃなかったっけ?
「不思議・ってツラしてんな」
「……」
「山崎が拾ってきたんだよ」
「やまざき。……パン?」
「違うわ!パンがどうやって堀ん中から娘一人引っ張り出すってんだオイ!!…うちの隊士だよ、花見ん時わりと主要キャラ顔して色々やってたろ?」
「覚えてないヨ」
「…まあいい。そいつはちょうど任務で江戸城付近に居た。そいでお前がぴょいと飛び出て撃たれて堀に落ちてくのを目撃したってわけだ。結構近くに居たと聞いたけどな」
「ちかく……」
居ただろうか、と首を捻る。城の番兵なんかナメ切っていたから、周りの気配になど少しも気を配っていなかった。
 「感謝しろよ。夜兎だかなんだか知らねえが、肺まで貫いて心臓付近二発撃たれりゃ死にもするぜ。しかも水の中に沈んで気絶とあっちゃ」
手当ては山崎がやったがあいつは元々医者見習いみたいなこともしてたことある奴だから・と小さく付け加える。どうやら一応それなりの歳に育っている娘を承諾も無しに衣装を外して手当てしたことを少し気にしているらしい。つくづく変な奴・と思う。自分でも自分はガキだと思っているし、だいたい裸を見てどうのこうのというのが、実は未だに良く解っていない。
「……熱いヨ」
「傷が熱持ってんだ。肺の損傷にはここに着く頃になって気付いたけどもう既に治り始めてて驚いたって山崎は言ってたけどな。重傷には変わりねえし…直後にあんな汚ぇ水ん中落ちたのも悪かった」
 良いから大人しく寝とけ、万事屋には連絡してやる。
 相変わらず開き気味の瞳孔がなんとなく穏やかな気がして、少し笑う。それを目ざとく察知してなんだよ・と訊いてきた土方に、なんでもないヨ・と適当に返す。
「じゃ、遠慮せず寝させてもらうアル」
「おう。どーせ普段は使ってねえ空き部屋だ、思う存分寝ろ」
「あ」
「なんだ?」
「そういえばその山崎パン、私落ちた辺りにこんなくらいの包みがあったとか言わなかたカ?」
「包み?」
手でサイズを示したが、きょとんとした土方の目でどうやらなかったらしいと悟り、少し肩を落とす。
「…失くしちゃったアル……」
「なんか大事なもん持ってたのか」
「……お前関係ないヨ」
前にも言われたなこんなセリフ・とか思いつつ、
「そういやお前、城なんかに入って何しようとしてた」
「……散歩アル」
「そよ様にでも会おうとしたか?」
「……」
馬鹿正直な奴。
「じゃ、包みはさしずめ、久々に会うから手土産・ってとこか」
「…お祝いヨ」
「あ?」
「マダオが言ってたアル」
「……まだお?」
「マ・ダ・オ。…そよちゃんが、結婚するんだって」
煙草を灰皿へ運ぼうとしていた手を止める。なんだって?
「どっかの星の王子さまと、結婚するんだって、マダオ言ってたアルヨ。だからお祝いしようと思ったアル」
プレゼントを失くしたのがよほどショックだったらしい。俯き加減でぼそぼそと言い続けている。まあ局長なら慰めてやるところだろうが、今はそれどころじゃない。
「待て。マダオって誰だ」
「んー…名前知らないヨ。あ、でもいっぺん新八が“長谷川さん”って言ってた気ぃする。なんか“まだ再就職先見つからないんですか大変ですね”とか言って」
長谷川。再就職。つまり一度、どこかの職場でクビになっている。
 即座に二、三ヶ月前まで入国管理局に居たグラサン面が浮かんだ。長谷川泰三、某星の王子に無礼を働いたとかでクビは飛んだが元は幕府の重鎮だ。知り合いづてに何か裏情報が流れてきてもおかしくは無い。

これは大きなヒントだ。

土方の勘が、そう言っていた。


「多串クン」
「…土方だ」
「ところでその山崎パン」
「いやさっきも思ったけどパンは要らねえって……なんだ?」
「そいつ、お城で何してたヨ?」
はっと目を見開いてそれでも何も言わない土方に、さらに言う。
「真撰組ったって、いつも城に居るわけじゃないだロ。それに、もしちゃんとなんかの仕事で居たのなら、私――勝手に侵入した賊なんか、助けないで放っとくネ。」
「……」
「私はそよちゃんにお祝い渡すためってちゃんと言ったヨ。お前も正直に喋るアル」
 少し、睨む。威しは暖簾に腕押しなど百も承知、ただ相手を見定めるためだ。
 こいつは思ったよりは頭が回る。が、その割に肝心のところでいまいち鈍くてガキの思考だ。口もそう固くは無い。




喋るのは得策ではない




「…あいつの日課は夜中の江戸散歩だ。そのコースに今日はたまたま江戸城が入ってたんだよ」
 勝手に趣味作って悪ぃな山崎、今晩からは夜は散歩に出てくれ。
「……散歩…真撰組が。」
「悪いか。……お前を助けたのは、あいつが優しいからさ」
 これは真実。たとえ落ちたのが神楽だと分かっていなくても、彼なら助けただろうと思う。
「ほれ、お前はとっとと寝ろ。お前の回復力なら昼ごろには多少動けるようになるだろ、そしたら万事屋呼んでやる」
「……」
「返事は?」
「…分かったヨ」

 諦めたように言うと、神楽はぽてんと枕に頭を落とした。



































 「ただ今帰りましたー!女の子、どうですか?」
「一回起きたが、また寝た」
「…連絡しなくて良いんすか?ホントに。心配してますよきっと、もう朝ですもん」
「五月蝿い。まだ動かせる状態じゃねえ、つまりあいつら呼んだらここに居座る。そしたら色々めんどくさい」
「……さいで」
「それよりとっとと報告しろ」
「あ、はい。…やっぱどうもすっきりしない話みたいです」
「…縁談絡みか?」
「え、なんで分かったんすか!?」
山崎は本気で驚いているようだ。煙草の煙を吐き出し、こっちも少しだけ情報が入ったんだ・良いから続けろ・と促した。怪訝そうに首を傾げながらも話し始める。
「…実は結構ウワサにはなってたみたいなんですよ、そよ様の縁談。これが結構大きな話でして」
「政略結婚の類か」
「いえ。一応そうではないようです。あくまで将軍さまが妹君の幸せを思ってまとめようとした話でして、“当人達には”政略的な意図は全くありません」
「…当人以外には、違うんだな」
「……相手が問題なんですよ…馬氏加星の皇太子」
はっと顔を上げる。
「馬氏加…って、」
「ええ。あの、馬の頭そのまんま人間にくっついてる奴」
「イヤそこじゃねェよ。…戌威星の連中と最っ高に仲悪ぃ奴等だろ」
「ご名答」
そこで山崎も軽くため息。
「それでも今までは表向き安定して両星の関係は続いてました。戌威族の方が早く地球に来たため幕府での権力も強く、比較的大人しい性質の馬氏加族は進んで一歩引いていたからです。荒い気性の戌威族も一応はその位置で満足し、馬氏加族はチャンスが来るならその時に・程度で構えていた。……ですが、この縁談が正式に成立した場合」
「…その立場が一気にひっくり返る」
「はい。ま、戌威族が黙ってそれを認めるわけが無い・ってことで」
「……『将軍家と相手が結びつく前に、その仲介となる女をとっとと殺してしまえ』、か」
「どうやら“上”で動いてるのもその筋ですね。戌威族と繋がってる連中」
「金で動くもうろくじじいと喧嘩大好きの馬鹿犬か。とても笑って眺める気にはなれねェ組み合わせだな」
「…副長……」
真っ直ぐ見つめる。膝の上でそろえた拳をぎゅっと握り締めて。
「どうしますか。」
「どうって?」
「これから・ですよ。…縁談さえ無くなれば、治まると思いますか?」
「無理だろう」
「……やっぱり」
ぎゅっと煙草を潰し、新たに一本取り出す。
「縁談を無くすって方が・だがな。…如何せん、話が俺たちには雲の上すぎんだよ。一番良いのは将軍さま直々に馬氏加星へ断り入れて、その旨しっかり戌威星の連中にも伝えてもらうことだろうが、幕府方でも随一の荒くれ者で暴力好きの馬鹿揃いと名高い真撰組に一日足らずで謁見許可が出るわけが無い」
「どうしてですか?そよ様暗殺の計画が陰で進んでいると言えば……」
「んなもん言えるか!その進言が将軍様へ届くまでに、どれだけの上の連中を介すると思ってる?戌威と繋がってる奴に一言でも漏れれば、あっという間に伝わって計画が変更になっちまう…多分、予定より早くなりふり構わず・な。どうせ使うのは身元も知れねぇ捨て駒の賊ばっかだろうし、慌てて使って一人や二人とっ捕まっても“上”は無事だ。根本の解決にならねえ上、そよ様の危険が増える」
「……なら…」
「やっぱり計画の直前に城へ殴りこむのが一番だろ。あまり早くに入ると番兵どもが押し寄せて邪魔になるか、悪けりゃ追い出されるかもしれねえ。そよ様保護したらその後で将軍さまへ言い訳だ。時間さえあれば縁談の破棄もそれで戌威族を治める猶予も、出来る」
「…解りました」
 とりあえずの結論、しかし多分変わることは無いだろうその言葉を聞いて、山崎も立ち上がった。部屋を出かけた彼を、オイ・と止める。
「なんですか?」
「…なに笑ってんだ」
すると、しまった・見えてたか・といった感じの表情が浮かんだ。なんだか少し腹が立つ。
「…人が真剣に話してるってのに……」
「すみません。ただ、」
もはや隠しもせずくすくす笑いながら、
「これだけ長々話して、色々ややこしいことも解ってきたのに、出た結論は結局副長らしいなと思って」
「俺らしい?」
「だって要するに派手な喧嘩だもの。これから俺たちのすることって」
ぽかんとする土方に、また笑う。
「どうせ難しいこと言っても分かんないやつの方が多いしね。正しいと思うっすよ」
「……へぇ?」
「あ、それと」
「あ?」
「楽しそうに見えたので」
「…」
「副長が。」
「…不謹慎な事言ってんじゃねぇよ」
「すみません。肝に銘じときます」
 結局山崎は、笑いながらまたいつも通り外回りへと出て行った。少しだけぼうっとしてから、はっと我に返る。

 楽しい?

 いや。冗談じゃねぇぞ。











 何度かそう自問自答していたが、完全には否定できそうにない気がして一人悶々とする。が、すぐに庭から山崎が景気良くミントンのラケットを振る音が聞こえてきたのでそれも馬鹿馬鹿しくなり、山崎を殴るべく土方も部屋を出て行った。



















 計画実行の夜まで、あと半日も無い。














                               ----------To Be Continued.
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 …まだ続くのかよというツッコミが入りそうですが続きます(ぁ

 なんだかんだ言って楽しい…(笑) やっぱり私は戦略物とか好きみたい(三国志大好きです(きっぱり))




 ちなみに。

 馬氏加→ウマシカ→馬鹿(バカ)  


 ……すいません(おい) だって動物関係が良かったから…!そしてそよの相手(一応)の皇子の顔が馬以外浮かばなかったから…!!(ぇ




 山崎がどんどんエセになっていくのがちょっと気になりますが頑張ります(オイ)