『誰が為に 君が為に、鐘の音を』   CAST:Shinsengumi,Yorozuya,soyo.

                       ----------2、『夜跳ぶうさぎ』















 闇に紛れ、濃い紅色がふっとよぎり、陰にまた消える。その紅色は大きく広い堀をいとも簡単にぽんと飛び越え、高い石塀の屋根に乗った。

 桃色の頭が、そっと空を仰ぐ。もうそれほどの権威は無いはずの癖してやけに堂々とした江戸城が、どんとそびえ立っていた。
 手の中の小さな包みに目を移す。


 「…そよちゃん、寝てるアルかな」
呟いた。傘はさすがに目立つし今は邪魔なので、置いてきている。
















 神楽がここへ来たのは、元はと言えば長谷川(彼女にとってはマダオであるが)から聞いた話のためだった。以前の同僚から小耳に挟んだ・という、他愛もない話としてぽんと出たこと。


“そよ姫さまが御結婚されるらしい”


 彼女も一応少女であるから、結婚にはそれなりに夢のあるイメージを持っていた。雇い主の銀髪天然パーマなどは『あんなもんは男を哲学者にする以外にゃなんの意味も無ぇ』とか言い捨てていたが、彼女には自分の両親の笑顔の方が大きく記憶に残っていた。
 きっと、“結婚”は幸せなことなのだ。だから、大好きな友だちがそれをするというのだから、お祝いしないわけにはいかないだろう・と。
 そう思って酢昆布用に貯めていたお金で小さなプレゼントを買って、そして我慢できなくなったら忍び込んで遊びに行こうと以前から思い探しまくっていた江戸城侵入ルートを利用すべく、夜の闇に紛れてやって来たのである。

 遠い場所絶対に立ち入れない場所・などと触れられていたが、実は思いのほかその警備が甘いことを彼女は知っていた。なんだかんだ言って時代は安定していて、偶のテロもそのほとんどが主に天人目当てだからである。唯一幕府に反旗を翻す一派も、今は京都で息を潜めているはずだった。自然、城の空気も緩んでいたのだ。
「そのお蔭で中にも入れるアル」
ぽそりと呟き、そしてプレゼントをきゅっと胸に抱く。もしそよが見つからなかったらどうしよう・と少しだけ切ない不安がよぎったけれど、ぐっと強く前を見据えてそれを消した。

 行くぞ。

 心の中で掛け声をかけ、すっくと立ち上がった。広い庭の少しでも向こうに着地するべく、強く跳ぼうと脚に力を込める。

 けれどその瞬間、どんどん・と続けざまに何かが胸を穿った。

「…え……」
脚がぐらつく。身体がかしぐ。世界が回って、真っ暗な堀の水面が見えた。

 「不審者だ!弾は当たった、仲間は居ないか辺りを探せ!」

誰かの怒鳴る声と、ぴりぴりぴりという呼子の高い音。ああ見つかったのだ・撃たれたのだ・と思い、それから銃に撃たれた程度でどうしてこんなにも自分は身体の自由が無いのだろうと不思議に思った。衝撃の有った胸を見る。


 ああ、胸の真ん中と少し左を撃たれてる。


 チクショウ割にいい腕してるじゃねーかヨ・と呟いた。まともな言葉はそれが最後。ざばんと大きな音が響いて、冷たい水が身体を包んだ。
 腕も脚も動かない。ずぶずぶ沈んでいく。汚い水は空の月も見せてくれやしない。




 ――ああ、プレゼントはどこへやったかな。














 意識は途切れかけていたが、不意に、もう一つざばんと音がして視界に白い手がこちらを真っ直ぐ向いているのが見えた・気がした。





 確かめる前に、瞼は下りてしまった。





































 騒がしかった城内が、次第に静まっていく。ちょうどその頃になって、ぱしゃりと微かな水音が闇の中で響いた。
 びしゃ・ぱしゃ・びちゃ。何か濡れたものが堀の石垣を叩く音。ゆっくり、何度も響く。
 最後に一際大きな音がして、一人の男が堀を上がった道に現れた。肩に、紅い少女を抱えている。男の真っ黒い衣装に、その紅色が映えていた。
 少し身体を右に傾け、少女を道へ下ろした。また水音。他にはなんの音もしない。
 その後しばらく、彼の少し乱れた呼吸音だけがそこを支配していた。沈黙が耳に痛い。

 彼は少し長い前髪をかき上げ、脇の少女を見た。彼女の胸には2つ赤い染みがついていて、口からはつう・と今も血が一筋垂れていた。






 「どうしようかな、この子…」

とりあえず土方さんに言って、屯所に置いてもらおう・と、再び少女を背負い、びしょ濡れの身体でそれでも身軽に、彼は走り出した。



































 「姫さま」

 普段この時間には来ることの無い、少し仲良くなってしまった下働きの小さな女の子がやって来たので、彼女は若干目を丸くした。どうしたのですか・とそっと答える。見つかったらじいやが五月蝿くなるのだ。
「さっきね、賊騒ぎがあったでしょう」
「…ああ。そういえば…怖いわね」
「んでね、わたし、その近くに居たの。んで、これ見つけたの」
「え?」
「そよちゃんへ・って書いてあったから、持って来たんだ。可愛いし」
「…え?」
 どくんと胸が高鳴った。“そよちゃん”?そんな呼び方をするのは、してくれるのは、今のところ自分にはたった一人しかいない。
 「ひよこのぬいぐるみだよ。お手紙も、あった」
ほら・と手渡す。黄色いふかふかのぬいぐるみと、拙い字で短く書かれた手紙。


 『お祝いだヨ、おめでとう。』


 そして最後に名前。



 『神楽より』




 がくがくと身体が震えだしていた。

 「……じいや!」
たまらずに女の子の存在も忘れて叫んだ。女の子は慌てて廊下の端に逃げていく。
 「なんでしょうか姫さ…あっ!またあのような者と遊んで…この間注意したばか」
「さっきの騒ぎ!さっきの、騒ぎ…ちゃんと教えてください!!」
「はあ?」
藪から棒になんだ・とあからさまに顔を曇らせる。
「姫さま、そのようなことは貴方の心配することでは…」
「答えて!」
「……見張りの者が人影を見つけました故、すぐさま発砲してこれの侵入を防ぎました」
「発砲!?」
 目に見えて姫が青ざめたので、これはどうしたことかと流石にじいも目を丸くする。
「姫さま?どうか…」
「そ、それ…それ……当たったの、ですか?」
ますますきょとんと目を見張る。
「…ええ。見張りの話では、撃つと直ぐに身体が跳ねて、堀に落ちていったとか。まあ撃たれて堀に落ちたのではまず生きてはいないでしょうから、いちおう水面を見渡しただけで放置しましたよ。……姫さま?」

 もう彼女は話を聞いていないようだった。ぎりぎりまで見開いた目で前を見つめて、手が白くなるまで手紙を握り締めていた。





 急に目の前が真っ暗になった。頬が冷たくなってじいやの叫ぶ声がして、自分は床板の上にばたりと倒れたのだと悟った。

 それでも何もしなかった。したくなかった。


 どうしようもなく強い虚無感が、彼女を包んでいた。














                                 --------To Be Continued.
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 まだまだ意味不明。やべぇまだ最初に浮かんだシーンまで少しも届かねえ(ぁ)

 (以下自分でダメ出しオンパレード(ぇ)↓↓)
 ていうかホントに城の警備ここまで神楽がナメるほどだったら問題あるよそれ。でも原作の神楽ならどんな警備でもナメそうだけど(どっちだよ) それにしても「まず生きてないだろうから」撃ち落とした人間(らしきもの)を放置するなんて有り得ない。…よな…やっぱ……(自分で書いたろ)
 あと神楽が手紙でまで「ヨ」なんて使うかは謎です。…多分使わな…(おい)


 神楽がどこまで際どい傷なら「重傷」になってくれるのか解らない……(汗)
 まだまだ続きます(あっまだまだって使うの二回目…(ぉ))