「おい、ちょっと。ちょっと待て。まずは落ち着いて話せ、山崎」
「き、局ちょ、局長が…っ、投獄されましたッ!」

















 『誰が為に 君が為に、鐘の音を』  CAST:Shinsengumi,Yorozuya,soyo.

                       ----------1、『うさぎは知らない』























 「何ィィィ!?」
「おいどーゆーこった、山崎ィィ!!」
「あの人ついにストーカーで訴えられたのか!」
「い、いえ、あのっ…」
「だぁぁぁ、落ち着けてめぇらァァァ!!」
 一気に騒がしくなった屯所内だったが、最後の土方の半分キレた一喝で少し収まる。それをきちんと確認した後で、続きを話せ・と目で促した。
「…は、はい。それが…どうやら上からの指示をはねつけた挙句、使者の方を殴り倒しちゃったらしくて」
「……。ったく、あの人は……」
「その場で取り押さえられて、連行されたそうです。」
そこで山崎は黙った。少し間が空く。
「……それで?」
「いや、それだけ」
 ぼかん・と思いっきり山崎の後頭部に一撃が入れられた。
「それだけってなんだァァそれだけって!もーちょっと情報無ぇのかよ!?」
「なっ無いんですもんしょーがないじゃないですかァァ!!」
「まぁまぁ、落ち着きなせィお二人さん」
胸倉を引っ掴み怒鳴りかかる土方と涙目で半分ヤケの抗議の声をあげる山崎に、のんびりと沖田が割って入る。しかし次の言葉には、
「俺が行って留置所から局長取り返してきたら済むことでさァ。看守一人や二人の犠牲は勘弁して下せェよ」
「おいィィ!それ脱獄じゃねェか!!しかも一番悪いタイプじゃないのそのやり方!?おいィィィ!!」
「うるせェなあ土方さん、男は黙って牢破りでさァ」
「無いわそんな恐ろしい慣用句!!」

 延々と続くこの二人の口論を、止められる人物は今は居ない。

 誰もがおろおろと視線を泳がせ、お前止めろよイヤお前やれよと目で言い合っていた所、見慣れない人間が現れた。上等の生地で作り上げられた幕臣用の服。


「副長殿はおられますか」


おかしいくらい冷静で事務的な声が、そう告げた。

 新たな使者だった。































 「一枚目は局長殿が破られてしまいましたので」
少し真新しい墨文字が、『極秘』と重々しく表を飾っていた。差し出されたそれを、一応神妙に受け取る。
「すみません」
二度手間かけさせまして・と付け加えるとやっぱり、いいえ・と事務的な返事が来た。密かにため息をつきながら、その指示書を開く。隊士たちはどうやら扉の前にぎゅうぎゅうに詰めながら息を潜めているようだ。

 思ったより短く簡潔だったその文面は、ぱらっと一開きするだけで全てを把握できた。





 身体が硬くなるのを感じた。






 「お分かり頂けましたでしょうか」
また乾いた声がして、はっと我に返る。
 唇が震えるのをやっと押さえながら、とりあえず訊ねた。
「…これは、誰からの命令ですか」
「言えません」
当然でしょう・とでも言いたげなその顔に、クソが・と脳内で唾を吐きかける。
「どうしてこんなものがウチにくるんですか」
「貴方がたはそれを訊くことの出来る立場ですか」
「……」


クソ野郎今夜からは夜道で背後に気をつけやがれ。






 「御了解頂けますね?」

刃向かう権利などお前らには無い・と。






 あくまで事務的なその言葉に、しばらく間を空けてから土方は口だけ笑って答えた。


「はい。」





























 「副長ォォ!なんだったんですか命令って!?」
「良いんすか了承しちゃって!局長は嫌がったんでしょ!?」
 口々に言う隊士たちをすべて無視し、指示書をくしゃくしゃに丸めて机に叩きつける。彼は明らかに不機嫌だった(今に始まったことではないけれど)。
「…中身、なんだったんですかィ」
その声に、初めてゆっくり視線を上げる。沖田の真っ黒い瞳を見た。そして、はあ・とため息をついた。
「……近藤さんが嫌がるはずだぜ」
「そんなろくでもない命令だったんですかィ」
「見てみろよ」
ほら・と投げやりに言って、すでに見た目は紙くずの指示書を投げてよこした。皆が一挙に沖田へ群がる。そして、のんびりと広げられたその紙の文面を見た瞬間、誰もが一様に黙した。
 しかし沖田はその重い空気を無視し、ゆっくりと最初の一文を読み上げた。

「“明日の夜、江戸城を襲撃し、そよ姫を拉致または殺害すべし”」


ふい、と顔を上げる。

「…本気ですかィ」
「だから言ったろ?」

 土方の口には嘲るような笑みが浮かべられていた。















「……俺、降ります」
誰かがぽつんと言った。それが合図だったかのように、皆が口々に何やらか叫びだす。
「だってそうでしょ!?そよ姫って…確かまだ十五やそこらの子供ですよ!」
「そ、そうだ!大体将軍家の人間になんで幕吏の俺らがそんなことしなきゃならねんだ!」
「子供、しかも女に刃向けろなんて…」
「そりゃ局長も怒るぜ…おい沖田さん、マジで留置場押しかけてやりましょうよ!!」
めいっぱい騒ぐ隊士たちを、土方はただ黙ってじっと見つめていた。と、不意に怒声の矛先が彼に向く。
「つーかなんで請け負っちゃったんすかこんなの、副長!?」
「あんた武士道どこにやったんだ!」
「武士の風上にも置けないわね!見損なったわ!!」
「やーい、土方さんの人でなし。死んだら地獄に落ちやすぜィ」
「総悟てめェ俺の悪口にだけちゃっかり参加すんじゃねェよ!!……誰が請け負うなんざ言った」
「は!?」
一瞬静まる。そして、わっと一気にどよめいた。
「な、何言ってんすか副長!あんたあの使者が『御了解頂けますか』とか言った時、すっきりきっぱり『ハイ』っつったじゃねーか!!」
「了解はしただろ。“了解”つまり“承知”した。『この命令の中身は一応分かりましたよ』ってこった…なんの不思議があるってんだ」
「おお、得意の言葉の屁理屈ですねィ。さすが副長、ひねくれ具合が俺らとはレベルがちが」
「るっせェ少なくともてめえよりゃ真っ直ぐだこの野郎ォォ!……あー、そういうことだからな、これから各自命令を下す」
「は!?」
 本日二度目。
「…あんた、命令無視すんじゃなかったの!?」
「このまま黙って姫さま殺させる気か、てめえら」
ぎろりと全員を睨み渡し、煙草を灰皿で潰す。
「俺たちだけがこんな大命受けてるとは思えねぇ。多分大本は上層部に食い込んでる天人だからな…黙って見てたりしようもんなら、明日にゃあ姫さまの首は天人の賊の手で跳ばされてるぜ」
「……」
「どんな理由があるのか知らねぇが、大の大人が寄ってたかってあんな年端もいかねェ小娘殺すなんて馬鹿な真似ぁ見過ごすわけにゃいかねェ。異存は無ぇな。なら指示出すぞ、……お前らは今日一日普通に動け」
 再びどよめきが広がる。つくづく静かに話を聴けねぇ連中だ・と土方はため息をつく。
「…本腰入れて動くのは明日、計画の動く時になってからだ。っつーか今は動きたくても動けねえ」
「なんでっすかァァ!」
「今すぐにでも動けますよ、とっとと牢屋殴り込んで局長取っ返して、その足で江戸城から姫さま攫って来ましょうぜ!!」
「バカ、それじゃあからさまにこっちが悪者だろが!…いや、それでなくても情報が少なすぎるんだ、動くには。だから計画決行までの時間をこちらとしては“猶予”と考えさせてもらう」

 隊士の間を回り帰ってきた指示書を、灰皿の上に載せる。

「せめて、ここまで急いで姫を消す理由と首謀者までは突き止めたい。それが判れば、姫を攫っても安全を確保した後でなんとでも言い訳はつくしその後の暗殺を防ぐことだって不可能じゃ無ぇ」

 カチリ・と、ライターに火を灯した。それを少し近づけただけで紙は焦げ始め、そしてぼうと微かな音だけ漏らして鮮やかな橙色の炎を上げ、燃え始める。

「せっかく事前にご予定知らせて頂いたんだ、こっちも丁寧に準備してきれーに潰してやろうじゃねェか。」

 どん・と、力を込めて真っ直ぐに刀を突き立てた。鞘の黒い身体に潰され、炭になりかけていた紙は一気に崩れ灰皿までが真っ二つに割れる。


「売られた喧嘩はどんなもんでも買うぜ。これが俺流の武士道だ、付いて来れねェ奴は今すぐ出てけ!」




 誰一人動く者はなく、そして誰もが微かに口端を上げて哂った。






























 「さー、市中見回り行くぞー。」
「あ〜俺休憩時間だったんだよ、寝よ寝よ」
 動き始めればあっという間に元通りの日常が流れていく。それが今の彼らの『仕事』だった。目に見えて室内の人口密度が減っていく。
 それを眺めながら、先刻使者が来てからずっと部屋の隅で変わらず沈黙を保っていた彼に振り向きはせず声だけかけた。
「山崎」
「へい」
「江戸城、探って来い。俺ら下っ端にはまだ降りて来てねえ話があるのかも知れねェ」
「特にそよ様関連・ですね」
「今すぐでも今晩でも構わん、兎に角何でもいいから土産持って来い!」
「はいよっ」
返事と共に部屋から気配が消えた。ふっと息をつく。新しい煙草に火を点けた。
 「忙しそーですねィ。」
「おめーも働け、馬鹿」
「いつも通りにしてろっつったのはアンタでさァ」
「その“いつも”ってのはそんなにも暇そうに俺の部屋でアイマスクかけつつ昼寝に入ることなのかい沖田さんよォォ!!」
「土方さん」
「…あ?」
ツッコミにいつものボケが返って来ず、割と真鬱な響きの声が来て思わず訊き返す。当の沖田は少しもそんなことは気にしない様子で、ぽつりと、
「…俺ァ、正直、お姫さまなんかどーでも良いんでさァ」
少し黙り、そしてその言わんとする所を読み取ってまた息を吐いた。
「わぁってる。お前は近藤さん奪還の方に回すつもりだよ、最初っからな」
「……ありがてェ」
そう言って、沖田はにっと笑った。本当に嬉しそうな笑顔とも見れたが、少し哀しそうな気もしてまた吐きそうになった息を慌てて止めた。煙草を吸う。
 「…そうじゃねーとお前は局長が気掛かりで姫さまほっぽってこっち来ました・なんてやりかねねェからな」
「なんか言いやしたかィ、土方さん?」
「いいや、何にも?」

 どうでも良いからてめえは仕事に行け・と、土方は足で沖田の背中を押した。












                       -----To Be continued.
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 やっちゃったという感が否めずに戸惑ってる阿呆管理人がここに(え) 漫画っ子なのでどう考えても漫画用ネタなんですよね、長くなると…(汗)
 最初は…確か土そよストーリーを漫画で落書いてたんですよ。でもそれは続ける気力がなくて文章ではじめたんですよ(おーい)

 真撰組へ命令を下すのがどこなのかいまいち分かんなくて適当に使者とか作ってしまいました。もうちょっとマシな役職名ないのかな。あと指示書ってなんだ指示書って。でもなんて言えば良いのか分からない!;;

 バトルが書きたいんですよ〜真撰組総出で土方さんの号令で全員ザッと動くとかやりたいんですよ〜…それ文章じゃあんまり意味無いんじゃない・なんて言わないで下さい〜(自覚してる<<…)
 無謀にも結構つづくこの話(うわぁ



 そうだ。

 隊士たちの中にしっかりオカマさんが混じってるんですよー。これこだわりどころ(違ぇ)